AI時代の清掃業界:人との共存が生み出す新たな価値

はじめに:AIとロボットがもたらす変化の波

近年、清掃業界にもAI(人工知能)や清掃ロボットの導入が進み、大きな変化の波が押し寄せています。ビルや商業施設、病院など様々な現場で自律走行型の清掃ロボットが活躍し始めており、「清掃の仕事がロボットに奪われてしまうのではないか」と不安の声を耳にすることもあります。しかし一方で、これら新技術とどう共存していくかが今後の大きなテーマになるとも言われています。実際、ある鉄道会社の清掃責任者は新幹線駅に導入した清掃ロボットについて「多数の従業員と清掃のロボットが力を合わせて仕事をしたい」と述べ、人手不足に悩む現場で人とロボットが協力して働く姿勢を強調しています【巨大駅舎で掃除の助っ人にW7顔のロボット登場 人手不足に苦しむ清掃業をサポート

(FBCニュース(日テレNEWS))

巨大駅舎で掃除の助っ人にW7顔のロボット登場 人手不足に苦しむ清掃業をサポート(2024年10月2日掲載)|FBC NEWS NNN
北陸新幹線敦賀駅にW7系の車両をイメージしたかわいらしい助っ人が登場です。コンコースの掃除担当として人手不足に苦しむ清掃業界をサポートするとともに、イメージアップにも貢献します。

つまりロボットは決して「人間の敵」ではなく、共に働く“仲間”になり得るのです。本記事では、清掃業界におけるAIとの共存の現状と展望について、業界歴50年の老舗企業「建美」の視点から考えてみたいと思います。初心者の方にも分かりやすく、清掃業界の今とこれからをお伝えします。

清掃業界を取り巻く人手不足の現状

まず押さえておきたいのは、清掃業界が直面する人手不足の深刻さです。オフィスビルやホテル、病院など清掃ニーズは高まる一方ですが、担い手となる労働力は減少傾向にあります。厚生労働省のデータによれば、清掃職の有効求人倍率は約1.5倍と高止まりしており、求人数に対して応募者が圧倒的に不足している状況です【

清掃業界の人手不足の原因と解消する方法を徹底解説!最新技術で業務コストを軽減(アイリスオーヤマ), https://www.irisohyama.co.jp/b2b/itrends/articles/4631/】。

少子高齢化による労働人口の減少や、清掃の仕事が体力的に厳しいこと、さらには他業界との人材獲得競争などが背景にあり、清掃スタッフの平均年齢が高齢化している職場も少なくありません。現場では慢性的に人手が足りず、一人のスタッフが複数の現場を掛け持ちしたり、清掃頻度を減らさざるを得ないケースも出ています。このような人手不足の解消策の一つとして期待されているのが、清掃ロボットの活用です。

実際に、清掃大手各社や施設管理会社では、ロボットによる清掃業務の一部自動化を進めています。深刻な人手不足が続く中、夜間や早朝の無人時間帯にロボットが床清掃を行うなど、人手を補完する取り組みが各地で始まっています。例えば北陸新幹線の敦賀駅では、可愛らしい新幹線顔のロボットがコンコース清掃に導入され、日中の営業中にも稼働を開始しました

【巨大駅舎で掃除の助っ人にW7顔のロボット登場 人手不足に苦しむ清掃業をサポート(FBCニュース(日テレNEWS)), https://news.ntv.co.jp/n/fbc/category/society/fb1a358428e3f04293bc45282260f46ad1】。

これは従来、利用客のいない時間にしかロボットを使えなかったのを、慢性的な人材不足を受けてロボットと人が同時に働く形に踏み切った初の例です。人手不足という課題に対し、清掃ロボットが“救世主”になり得るかは業界の注目するところですが、重要なのは「ロボットで人を置き換える」のではなく「人と協働する」という考え方です。

ロボットは仕事を奪うのか?それとも協働者か

清掃ロボットの台頭に対し、「このままでは自分たちの仕事が奪われてしまうのでは」と心配する清掃スタッフもいるでしょう。しかし決して諦める必要はありません。むしろロボットを上手に使いこなし、管理・監督する側に回ることで、新たな役割や働き方が生まれています。実際、清掃業界ではロボット導入と並行して人材育成の重要性も叫ばれています。あるビルメンテナンス企業の社長は「人手不足が深刻化する中で、AI清掃ロボットによる革新を進めると同時に人材教育を強化し、自ら考えて働くプロの集団を目指すことが重要」だと語っています

ロボットの力を借りて清掃効率を上げつつも、最終的な品質管理やイレギュラー対応は人間のプロフェッショナルが担う——そうした体制づくりが求められているのです。 具体的に現場では、ロボットを監視・操作する専任スタッフを配置し、人間の清掃員と連携してサービス提供するケースも出てきています。清掃ロボットが自動でフロア清掃をしている間、人は人にしかできない細やかな清掃や点検業務を行います。

ロボットに不具合があれば人がメンテナンスし、複数ロボットの稼働スケジュールを人が最適に調整する——まさに人がロボットの“上司”となってマネジメントするイメージです。

こうした役割分担の明確化によって仕事の効率は飛躍的に高まり、結果として慢性的な人手不足の解消にもつながると期待されています

【実践「生産性改革」:新日本ビルサービス 汚れを防止する「清掃革新」へ(公益財団法人日本生産性本部), https://www.jpc-net.jp/research/column/detail/006994.html】。

ロボットに任せられるところは任せ、人間はより付加価値の高い仕事にシフトする——これは清掃業に限らず、あらゆる業界で求められる“スマートな働き方”と言えるでしょう。

「キレイ」と日本文化:清掃の価値は不変

清掃業界がAI時代にどう変わろうとも、日本社会における「清潔さ」「きれい好き」の価値観はこれからも揺るがないでしょう。

日本人は古くから環境を清潔に保つことを美徳としてきました。例えば学校教育では、小学生の頃から生徒自身に教室や校舎の掃除をさせる習慣があります。

こうした教育のおかげで、多くの日本人にとって「掃除をする」「自分たちの使った場所をきれいにする」という意識が当たり前に身についています。

それは海外からも驚きと称賛の目で見られることがあります。記憶に新しいところでは、サッカーワールドカップの試合後に日本人サポーターがスタジアムのごみ拾いを自主的に行い、「日本のファンは負けてもスタンドを掃除して帰る」と世界中で話題になりました

【世界が称賛したごみ拾い 米国出身の社会学者が見た日本サポーター(朝日新聞) https://www.asahi.com/articles/ASQD7362MQD5UPQJ006.html】。

勝っても負けても後片付けをするその姿は、日本人にとってはある意味当たり前の光景かもしれませんが、他国の人々には「なぜそこまでするのか」と映るほどです。

このように、日本では「清掃」は単なる裏方作業ではなく文化の一部と言えます。神社で手水を使って身を清める習慣や、年末の大掃除(煤払い)の伝統など、「キレイ」と「日本」は切り離せない関係にあります。

したがって、たとえ清掃の手段が変化しても、清潔な環境を維持する役割自体が社会から軽視されることはありません。

むしろAIやロボットを活用してもなお人間の目によるチェックや心のこもったおもてなし清掃が求められるでしょう。

日本人特有のきめ細やかさや、美意識に裏打ちされた清掃クオリティは、簡単に機械だけで再現できるものではありません。清掃業に携わる者として、この文化的価値を未来に継承していく責任があると感じています。

人と機械のハイブリッドで高品質を実現

では、具体的に人間とロボットの“ハイブリッド”で清掃業務を行うとはどういうことでしょうか。

清掃会社各社の事例や現場の声から、そのメリットを整理してみましょう。大手施設管理会社の一つである近鉄ファシリティーズは、ロボット掃除機導入にあたり「『人の仕事をロボットに置き換える』のではなく『ロボットと協働すること』」という考え方を掲げています

彼らは、人間の清掃とロボット清掃の得意分野・不得意分野を分析したうえで、それぞれの長所を活かす協働を推進しています。実際、人とロボットの作業には以下のような特徴があります。

人の清掃作業の強み:目で見て判断し、臨機応変に隅々まで確実に綺麗にできる。細かな汚れや狭い場所、デリケートな設備の清掃などは人の経験と勘が生きます。ただし、広いフロアを長時間掃除し続けるのは体力的負担が大きく時間もかかるうえ、仕上がりの品質に個人差やムラが出る場合があります

ロボット清掃作業の強み:広範囲の床清掃などを安定した品質で効率良くこなせる。24時間365日稼働でき、決められたコースを正確に清掃するため、人間では難しい長時間作業や深夜早朝の無人作業も可能です。

ただし、ロボット自体に高額なコストがかかり、段差や通路の隅、階段などロボットが苦手な環境もあります。また、自分でゴミの回収や細かな仕上げはできないため、人のフォローが必要です

【深刻化する人手不足とロボット掃除機の導入(近鉄ファシリティーズ), https://www.kintetsu-fs.co.jp/recommend/post-02/】。

近鉄ファシリティーズでは、こうした双方のメリットを活かしデメリットを補い合う「ロボットと協働する働き方」によって、業務の効率化と安定した高品質サービスの提供を目指しています

まさに人と機械のハイブリッドが生み出す相乗効果と言えるでしょう。ロボットが黙々と広いフロアを清掃している間に、人は人手でしかできない細部の清掃や設備点検、安全確認に注力する。終わったロボットには人がゴミ捨てや充電準備をしてあげる

——お互いに支え合って初めて完璧な清掃が実現するのです。

50年の歴史と革新:建美の取り組み

清掃業界全体でこのような変革が進む中、私たち建美も今年創業50年という節目を迎え、伝統を守りつつ新たなチャレンジに取り組んでいます。建美は福岡の地元に根差し、長年地域のみなさまに親しまれてきた老舗の清掃会社です。

私は現会長である父から2020年4月に経営を引き継ぎ、二代目の代表取締役社長として舵取りを担っています。創業者である父の築いた50年の信頼と実績を受け継ぐことは大きな責任ですが、だからといって「守り」に入るつもりはありません

【株式会社建美 幡司 道士哉(LEADERS’ AWARD)

LEADERS' AWARD 
】。

事実、清掃業界はロボット技術の発展や働き手の高齢化などにより「衰退局面にある」と厳しい見方をされることもあります

しかし私は、新たな試みで生産性を高め、従業員の待遇を改善し、若い世代に魅力ある産業へ変えていけると信じています。その一環として、社長就任直後に取り組んだのが社内に保育園を設置することでした。

清掃の仕事は早朝や深夜勤務も多く、子育て世代には働きづらい環境になりがちです。そこで従業員が安心して働けるよう社内保育施設を完備し、子育てと仕事の両立を支援する仕組みを整えました

これは福利厚生の充実であると同時に、清掃業界では異例の新規事業でもあります。実際に社内からは「職場に子供を預けられて助かる」「長く働き続けたい」という声が上がっており、働きやすさの向上が人材定着やサービス品質向上につながると実感しています。

さらに、当社では長年蓄積してきた清掃のノウハウを時代に合った形で生かすべく、IT技術との融合にも力を入れ始めています。

例えば現場マニュアルのデジタル化や清掃手順の動画共有、社内SNSでベテラン社員が若手に知見を伝える仕組み作りなど、経験と知識をデジタルで継承する取り組みです。

清掃業は従来「職人技」の世界で、熟練者の勘や経験に頼る部分が大きい業種でした。しかしこれからは、その貴重なノウハウを属人化させずデータとして蓄積・共有していくことが不可欠です。

実際、他地域のある清掃会社では社内に研修施設を設け、キッチンやエアコン等の設備を使って実務練習ができる環境を整備するとともに、培った技術をデジタルコンテンツ化して外部向け研修サービスに展開する計画も進めているそうです

【DX × AI で”普通じゃない”清掃業を目指す(埼玉県DX推進支援ネットワーク), https://www.saitamadx.com/case/12812/】。

このように、清掃業の枠を超えて地域や社会にノウハウを還元していく発想は、業界全体を活性化させる上でも重要だと感じます。

おわりに:AIとの共存が拓く未来

AIやロボットの導入は清掃業界に新たな風を吹き込んでいます。それは脅威ではなくチャンスです。清掃スタッフの仕事ぶりは、今後「モップを持って床を磨く」だけではなく、「ロボットを相棒として使いこなす」方向へとシフトしていくでしょう。

実際、AIを搭載した自律清掃ロボットを100台以上も現場に配備し、人とロボットの役割分担を明確にして運用している企業もあります

【実践「生産性改革」:新日本ビルサービス 汚れを防止する「清掃革新」へ(公益財団法人日本生産性本部), https://www.jpc-net.jp/research/column/detail/006994.html】。

一方で、清掃業務には依然として人間の経験が必要とされる場面があることも忘れてはなりません

だからこそ、デジタルと人の役割をきちんと線引きし、お互いの強みを活かすことが肝心です。 私たち建美は、50年培ってきた現場力と信頼を土台に、ITやAIと共存する新しい清掃サービスを追求していきます。

「清掃=汚れた所をきれいにする仕事」という枠を超えて、汚れを「出させない」予防清掃やデータを活用した清掃品質の見える化など、新たな価値を提供できるよう挑戦を続けます。

幸いにも、日本には清潔を重んじる文化があります。それを守り支える清掃の仕事は、これからも社会にとって不可欠です。AI時代だからこそ、人の温もりや気配りが光る清掃が一段と価値を持つ場面も出てくるでしょう。

ロボットにはロボットの、人には人の役割があります。私たちはそのベストな共存関係を模索し、実践する業界のフロントランナーでありたいと考えています。清掃業界の未来は決して暗いものではありません。

ロボットを味方につけ、人間はよりスマートに、そして誇り高く——。これからも地域の「キレイ」を守るプロフェッショナルとして、進化し続けてまいります。

参考資料(出典):

巨大駅舎で掃除の助っ人にW7顔のロボット登場 人手不足に苦しむ清掃業をサポート(FBCニュース(日テレNEWS)), https://news.ntv.co.jp/n/fbc/category/society/fb1a358428e3f04293bc45282260f46ad1

清掃業界の人手不足の原因と解消する方法を徹底解説!最新技術で業務コストを軽減(アイリスオーヤマ), https://www.irisohyama.co.jp/b2b/itrends/articles/4631/

実践「生産性改革」:新日本ビルサービス 汚れを防止する「清掃革新」へ(公益財団法人日本生産性本部), https://www.jpc-net.jp/research/column/detail/006994.html

世界が称賛したごみ拾い 米国出身の社会学者が見た日本サポーター(朝日新聞), https://www.asahi.com/articles/ASQD7362MQD5UPQJ006.html

深刻化する人手不足とロボット掃除機の導入(近鉄ファシリティーズ), https://www.kintetsu-fs.co.jp/recommend/post-02/

株式会社建美 幡司 道士哉(LEADERS’ AWARD), https://www.leaders-award.jp/2021/entrysg4zb.html

DX × AI で”普通じゃない”清掃業を目指す(埼玉県DX推進支援ネットワーク), https://www.saitamadx.com/case/12812/